大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和61年(レ)104号 判決 1987年5月08日

原告(控訴人)

日本総合信用株式会社

(旧商号・西日本総合信用株式会社)

右代表者代表取締役

村上守

右訴訟代理人弁護士

中務嗣治郎

村野譲二

久米川良子

安保智勇

岩城本臣

加藤幸江

三浦和博

被告(被控訴人)

松浦昭代

主文

原判決を取消す。

被告(被控訴人)は、原告(控訴人)に対し、金二〇万九四八三円及びうち金一九万八〇〇〇円に対する昭和五九年九月二〇日から支払済みまで年29.2パーセントの割合による金員を支払え。

訴訟費用は、原審及び当審を通じ被告(被控訴人)の負担とする。

この判決は、主文第二、第三項に限り、仮に執行することができる。

事実

一  原告は、次のとおり述べた。

1  原告は、被告との間において、昭和五八年一二月二三日左記要旨の契約を締結した。

(一)  被告は、原告に対し、被告が右同日訴外株式会社アメリカン・ライフ社から買い受けた調理鍋一式の代金一九万八〇〇〇円を同社へ立替払いすることを委託する。

(二)  被告は、原告に対し、右立替金一九万八〇〇〇円に手数料金七万一二八〇円を付加した合計金二六万九二八〇円を、昭和五九年五月から同六四年四月までの間で毎月二六日限り各金一八〇〇円(ただし、初回は金三〇八〇円、毎年七月及び一二月は各金一万七八〇〇円)宛に分割して償還し、被告が右割賦金の返済を遅滞し、原告から二〇日以上の期間を定めた書面に基づく催告を受けてなお支払いをしないときは、残債務の全部につき当然に期限の利益を失い、これに年29.2パーセントの割合による遅延損害金を付加して一時に支払う。

2  原告は、昭和五九年一月一〇日、アメリカン・ライフ社に対し、右調理鍋一式購入代金一九万八〇〇〇円を立替払いした。

3  しかるに、被告は、右割賦弁済金を初回から支払わなかつたので、原告は、被告に対し、昭和五九年八月二九日到達の書面で、当時遅滞となつていた金二万四四八〇円(同年五月分から八月分まで)を右書面到達後三週間以内に支払うよう催告したが、その期間内の支払いがなかつたので、被告は、同年九月一九日の経過とともに残債務全部につき期限の利益を失つた。

よつて、被告は、原告に対し、上記立替金一九万八〇〇〇円とこれに対する期限の利益喪失の日の翌日である昭和五九年九月二〇日以降の年29.2パーセントの約定率による遅延損害金、並びに、手数料金一万一四八三円(当初の支払約定額金七万一二八〇円から期限の利益喪失時点で期間未経過分に相当する金五万九七九七円を控除した額)を支払う義務がある。

二  そこで、原告は、

主文第二項と同旨

の判決と仮執行の宣言を求める旨申し立て、

被告は、

原告の請求を棄却する。

との判決を求めた。

三  被告は、「昭和五八年一二月二二日、契約書に署名押印したことは認めるが、契約書の控を受け取つていない。このためクーリングオフの制度を知らなかつた。被告が、原告に対し、割賦弁済金を全く支払わなかつたことは認めるが、それは、被告が、アメリカン・ライフ社に対し、同月二四日電話でさらに同五九年三月九日到達の書面で本件売買契約を解除する旨通知したことによるものである。」と述べた。

四  原裁判所は、原告の請求を棄却し、原告に訴訟費用の負担を命じた第一審判決を言い渡した。

五  原告は、右判決に対して控訴を申し立て、原審における主張を反覆したほか、次のとおり述べた。

1  割賦販売法(昭和五九年法律第四九号による改正前のもの。以下「旧割賦販売法」という)第四条の三及び訪問販売等に関する法律(同改正前のもの。以下「訪問販売法」という)第六条は、同条に基づく販売契約の購入者等が当該契約の解除を行う(クーリングオフ)には、書面によることを要すると規定しているところ、被告の主張する昭和五八年一二月二四日の本件売買契約の解除の意思表示は、電話でなされたもので書面によるものではなかつたから、その効力を生じていない。また、本件売買及び立替金契約に際し、アメリカン・ライフ社の従業員である辻本豊は、被告に対し、右各契約書の控(売買契約書の控には、販売価格として金一九万八〇〇〇円、商品の引渡時期として昭和五八年一二月二二日の他、売買契約の年月日やクーリングオフの説明等の記載があり、立替払契約の控には、割賦販売代金や代金の支払方法、時期等の記載がある。)を交付したものであり、右交付の日から起算して四日を経過すれば旧割賦販売法第四条の三第一項第一号によつても訪問販売法第六条第一項第一号によつてもクーリングオフをなし得なくなるのであるから、被告主張の同五九年三月九日の書面による本件売買契約の解除も、その効力を生じたものでない。

2  仮に被告のなした本件売買契約の解除が有効であるとしても、立替払契約と売買契約とは別個のものであるから、後者に関する事由をもつて前者に基づく債務の免責事由とすることはできない。したがつて、被告は右解除をもつて売買代金の立替払をなした原告に対抗し得ないものである。

六  原告は、

主文第一、第二項と同旨

の判決と右第二項につき仮執行の宣言を求める旨申し立てた。

七  被告は

本件控訴を棄却する。

との判決を求め、

原審における主張を反覆したほか、「昭和五八年一二月二二日、原告主張の売買及び立替金契約が締結されたこと(ただし、立替金契約の内容については争う。)、原告から被告に対し、昭和五九年八月二九日到達の書面で、原告主張どおりの催告があつたことは、いずれも認める。原告がアメリカン・ライフ社に立替払いしたことは知らない。」と述べた。

八  <証拠略>

理由

原告の控訴は、理由があるものである。

一被告が株式会社アメリカン・ライフ社(以下「アメリカン・ライフ社」という)から調理鍋一式を代金一九万八〇〇〇円で買い受けたことは、当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、右売買契約は昭和五八年一二月二二日に締結されたことが認められる。

二被告は、右売買契約を昭和五八年一二月二四日電話により又は同五九年三月九日到達の書面により解除した旨主張するので、この点につき検討する。

<証拠>によれば、昭和五八年一二月二二日、当時アメリカン・ライフ社の従業員であつた辻本豊は、被告の住居において、調理講習会を開き、調理器具類の宣伝販売をしたこと、その際、被告は、同会社から調理鍋一式を代金一九万八〇〇〇円で買い受けることを承諾し、辻本から渡された複写式になつた売買契約書(甲第六号証はそのうちの一枚)の「契約者」、「現住所」、「TEL」の各欄にそれぞれ自己の氏名、住所、電話番号を記入し、辻本に差し出したところ、同人は、右契約書にさらに「商品名」、「現金正価」、「納品日」の各欄にそれぞれ「インコラAセット一、ケトル一、ボール一、ミキサー一、包丁一」、「一九万八〇〇〇円」、「五八年一二月二二日」と必要事項を補充し、担当者欄にの印を押捺したうえ、第一枚目の顧客控を切り離してそれを被告に手渡したこと、右顧客控には、「お知らせ」欄に「①お客様が、店頭以外の場所で、ご契約をされた場合、本書面を受領した日を含む四日間は、上記契約をされた会社宛、書面により本契約の解除を行うことができ、その効力は、書面を発信した時(郵便消印有効)より生じます。ただし商品の引渡しを受け、かつ、代金の全部を支払つた場合を除きます。②その場合、お客様は、既に引渡された商品の引取りに要する費用の負担はなく、また既に、代金を支払つている場合は、遅滞なく、その全額の払戻を受けることができます。なお、お客様が本契約の解除に伴い損害金又は違約金の請求を受けることはありません。」とクーリングオフについての説明が赤わくの中に記載されていることが認められ、右認定に反する<証拠>はたやすく措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、本件は、特定の販売業者(アメリカンライフ社)が行う購入者(被告)への指定商品(なべ。昭和五九年政令第三〇五号による改正前の旧割賦販売法施行令一条、別表第一、三一)の販売を条件として、割賦購入あつせん業者(原告)が、右販売業者たる割賦購入あつせん関係販売業者(アメリカン・ライフ社)に後記四認定のとおり右指定商品の販売代金全額(一九万八〇〇〇円)を交付し、右購入者(被告)から後記三認定のとおり二月以上の期間(六〇ケ月間)にわたり、かつ、三回以上(六〇回)に分割して右金員及び手数料(合計二六万九二八〇円)を受領するという割賦購入あつせんであり、いわゆる個別割賦購入あつせんにあたるものであるが(改正後の割賦販売法第二条第三項第二号参照)、被告が右商品購入に際し、それと引換えに、又はそれを提示してアメリカン・ライフ社から商品を購入することができる証票その他の物が、原告から交付され、かつ、これと引換えに、又はこれを提示して、右商品を購入した形跡は全く窺えないから、本件については、旧割賦販売法の適用はない(同法第二条第五項参照)といわなければならない。しかし、他方、販売業者であるアメリカン・ライフ社の従業員辻本が営業所等以外の場所において本件売買契約を締結したのであるから、訪問販売法第二条第一項にいう「訪問販売」に該当するということができ、また本件売買契約の目的物である調理鍋一式は、主として日常生活の用に供される定型的な条件で販売するのに適する物品であり、同法施行令付則別表第一、三一に該当することから、同法第二条第三項にいう「指定商品」であるということができる。そして、右認定事実及び<証拠>によれば、辻本は、被告の住居において本件売買契約を締結した際、遅滞なく、販売価格、商品の引渡時期等同法第五条第二項、第四条、同法施行規則第三条に規定する事項について売買契約の内容を明らかにした書面を被告に交付したことが明らかであつて(ただし、同書面には代金の支払の時期及び方法(同法第四条第二号)についての記載を欠いているようであるが、右売買契約が第三者の原告による代金全額立替払を内容とする割賦購入あつせんにかかることを考えると、右記載が絶対的に必要とは解されない。)、さらに、右認定のとおり、右書面の「お知らせ」欄にはクーリングオフの説明が記載されているところ、右記載は、同法第六条第一項第一号、同法施行規則第六条で必要とされている告知事項をすべて満たしているということができる。以上によれば、被告は、同法第六条第一項により、右書面を受け取つた昭和五八年一二月二二日から起算して四日を経過するまでは本件売買契約を解除(クーリングオフ)し得たけれども、四日を経過することによつて契約の解除をなし得なくなつたものということができる。

ところで、被告は、昭和五八一二月二四日電話によつて右売買契約を解除したと主張しているのであり、そうとすれば、クーリングオフに関する右法定の期間を遵守したものということができる。しかし、訪問販売法第六条第一項は、クーリングオフは、「書面により」行うことができると規定しているのであり、その趣旨は、そもそもクーリングオフ制度は、契約当事者の一方の単独行為により合意による拘束を免れることを認めるものであるから、その行使の方式を厳格にし、かつ、その効果の発生について後日紛争が生じないようにするにあるものと解される。それ故クーリングオフの方式に関する同条の規定は、これを厳格に解することが必要であり、被告の主張する右電話による本件売買契約の解除は、かりにその事実があるとしても、右売買契約を失効させるものでなかつたといわなければならない。

次に、前述のとおり、被告は、昭和五八年一二月二二日から起算して四日を経過することによつてクーリングオフをなし得なくなるのであるから、被告の同五九年三月九日到達の書面による本件売買契約解除の主張も、理由がないものである。

三原、被告間で、同五八年一二月二二日本件立替払契約を締結したことは、当事者間に争いがなく、右立替払契約の内容が原告主張のとおりであることは、<証拠>によつて認めることができる。

四次に、<証拠>によれば、原告が昭和五九年一月一〇日アメリカン・ライフ社に対し本件売買代金一九万八〇〇〇円を立替払いしたことが認められる。

そして、原告が被告に対し、同年八月二九日到達の書面を以つて、同年五月分から同年八月分までの割賦金合計二万四四八〇円を同書面到達後三週間以内に支払うよう催告したが、被告において右期間内に右金員の支払いをなさなかつたことは当事者間に争いがないのであるから、被告は、同年九月一九日限り期限の利益を失つたといわざるを得ない。

五そうすると、被告は、原告に対し、上記立替金一九万八〇〇〇円とこれに対する期限の利益喪失の日の翌日である昭和五九年九月二〇日以降の年29.2パーセントの約定率による遅延損害金、並びに、手数料金一万一四八三円(当初の支払約定額金七万一二八〇円から期限の利益喪失時点で期限未経過分に相当する金五万九七九七円を控除した額)を支払う義務がある。

六以上の次第で、原告の請求は正当であり、これを棄却した原判決は、失当といわなければならないから、民事訴訟法第三八六条に従い、原判決を取消して原告の請求を認容することとし、なお、訴訟費用の負担につき同法第九六条前段、第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官戸根住夫 裁判官加登屋健治 裁判官大島眞一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例